イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
またしてもパニックに陥り、自分にツッコミを入れるけどそれどころじゃない。

“嫁”という二文字を聞いて、本庄さんは魂が抜けそうになっているし、他の社員は“やっぱりそうだったんだ!”と確信しているのが、なんとなく空気でわかる。

けれど、これで納得するはずもない本庄さんは、私から手を離した部長に詰め寄る。


「い、いつ結婚したの……!? 指輪してないじゃない!」

「つい最近だ。指輪は今オーダー中」


偽りの旦那様はしれっと言ってのけた。

またテキトーな嘘をよくまぁぬけぬけと……! 開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。

どうするのよコレ……私達、本当に坂本夫妻になっちゃうじゃないですか!

軽く泣きそうになりながら部長を見上げると、彼は呆然とする本庄さんに冷ややかな視線を向けて言う。


「これでわかっただろ。もう俺に構わず仕事しろ。お前らも、人の噂してる暇があったら契約の一本くらい取ってこい」


ギロッと鋭さを増した眼差しで、営業部の社員を見回す。

皆が反射的に背筋を伸ばし、部長は満足したような笑みをわずかに口元に浮かべる。


「くれぐれも、俺達の新婚生活を邪魔するなよ」


もう言い訳のしようがないほどの嘘の釘を刺した彼は、再び静まり返るオフィスを横切り、ひとり優雅に自分の椅子に腰掛けるのだった。


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