イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
さらに早乙女を煽るような言い方をしたが、俺にも悠々とした余裕があるわけではない。

ただ、隙がないところを少しでも敵に見せたら終わりだろ。

ポーカーフェイスを保ったままでいる俺に、早乙女は普段は絶対見せない苦虫を潰したような表情を露わにし始める。


「……昨日、一葉ちゃんと話しましたけど、部長と違って余裕なさそうでしたよ。すごく苦しそうで、見ていられなかった」


本当に心配そうにして目線を下げる彼を見ながら、頭ではさっきの会議室での光景を蘇らせる。

『辛いんです』と言い、瞳いっぱいに涙を溜めて、必死に堪える彼女の姿を。


「あんな顔をさせてまで、彼女をそばに置いておきたいんですか?」


真剣な表情で問われ、俺の胸がわずかに痛む。一葉を辛くさせているのは、間違いなく俺だから。

そうしてしまったのは、やはり忘年会の後のことが引き金だろう。

キスをするひとつの原因にもなった、目の前のライバルを見据えながら、あの日のことを思い返した。


 * * *


忘年会の中盤、トイレから戻ってくると佐原さんに呼び止められ、なぜか宴会場の中央あたりの障子の前に連れてこられた。


「何ですか?」

「いいから、ほら」

< 253 / 320 >

この作品をシェア

pagetop