イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
“あの夜”の一部始終
約二ヶ月前の土曜日。
会社の最寄り駅から、バスで約一時間の町にある実家に、私は日帰りで顔を出していた。少なくとも月に一回は帰ってこいと、一人暮らしを始めた時からの約束だから。
緑が多い土地に構えた、年季が入っているけどまあまあ綺麗な日本家屋が私の実家。妹と両親と四人で暮らしていたのだけど、今いるのは両親だけ。
洋風テイストも取り入れられた和モダンなダイニングで、両親と一緒に手土産のケーキを食べている時、突然お父さんが真剣な表情でこんなことを言った。
「一葉、そろそろ孫の顔を見せてくれないか」
ベリーのタルトを運ぼうとして、口を開けたまま固まる私。そして、じとっとお父さんを見据える。
孫の顔ってねぇ……。それは二十三歳にしてすでに結婚している、妹の花苗(かなえ)に言うのが正しいでしょう。
「相手が違うよ。花苗に言ってくれる? 私まだ『そろそろ』って言われる歳でもないし、ていうかまず結婚してないんだから」
「開き直るでない」
なんでやねん!と、仏頂面の父に、関西人でもないのに心の中でつっこむ。開き直ってるんじゃなくて、事実を言っただけだから!
見た目はキリッとした紳士という感じなのに、少々とぼけているお父さんは、片眉を上げて腕を組む。