イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
しばらく唖然としてしまい、それが部長直々に下された辞令だったのだと、後から気付いた。

そういえば、どうして私なんかが選ばれたのか、まだ聞いていなかったな。引き継ぎでとにかく慌ただしくて、そんな余裕がなかった。

今度聞いてみようと思いつつ、メイン料理を選ぶためメニューをめくると、ふみかが眉を八の字にして私の顔を覗き込む。


「でも一葉の方が大変だよね。大丈夫? 事務のおばちゃんとか、嫌味な営業マンとかにいじめられてない?」


大袈裟に心配してくれるから、私はぷっと吹き出した。

ふみかはいつも明るく元気で、リアクションも大きければ、過保護なくらい人のことを気にかけてくれる。可愛くて面白い子なのだ。


「それはご心配なく。仕事教えてくれる中谷さんって女の人も、すごくいい人だし。ただ……」

「ただ?」


キョトンとする彼女から、見るともなくメニューに目を落として、ぽつりとこぼす。


「坂本部長と、ちょっと……」


その瞬間、ふみかの表情がぱぁっと明るさを増す。


「待ってました坂本部長! それ聞こうと思ってたんだよ~。ふたりは“あんなこと”があった仲なんだしさぁ」


ウキウキと俄然楽しそうにするふみかだけど、私は恥ずかしくなってメニューで顔を隠した。

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