イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
それでもふみかは、わくわくしながら軽い調子でこんなことを言う。


「いいじゃん、この際部長が言うみたいに楽しんじゃえば。恋愛偏差値上げてくれるんでしょ?」


さっき会議室で言われたことが脳裏を過ぎる。
恋愛偏差値ねぇ……。本当に、何で部長は急にそんなことをする気になったんだろう。

二ヶ月前のあの時は、『軽々しく結婚してくれなんて言うなよ』って言っていたくせに。軽々しく夫婦を演じることにしたのは、どこのどなたでしょうかね。

私も、恋愛スキルをレベルアップできることならしたいし、模擬結婚生活にまったく興味がないわけではないけれど……。


「でも、皆を騙してるわけだし」

「それで迷惑になる人、誰かいる?」


すぐさまそう返されて、押し黙った私は少し思案する。

……本庄さんとか、部長に好意を持ってる人にとっては迷惑だよね。でも、そもそも女を寄せ付けないための偽装なのだから、その人達は省くとして……。

特に困る人はいない、か。

なんだか呆気ない答えが出て、背徳感が薄れていく私に、ふみかはニッと笑ってみせる。


「ね、誰も迷惑しない。しいて言えば、本人達が社内恋愛できないってことくらいかな」

「あぁ……それ忘れてた」


たしかに、他に恋人を作ったら不倫だと思われてしまう。そちらが本命なのに、何ともおかしな話だ。

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