イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
ブラック上司、本領発揮
月曜日から、偽装夫婦としての生活がついに始まってしまった。
どんな目で見られるかという不安もあったけれど、土日を挟んだおかげか皆はいたって普通だった。休憩中、中谷さんにはちょこちょこと聞かれたけど。
でも、そんなに悩むような質問ではなかったし、一応答えはいくつか用意してあるから、それから数日もなんとかやり過ごせている。
本庄さんも姿を見せなくて、私に対する部長の接し方も特に変わらない。仕事の方も覚えてきたし、とりあえず平穏な日々が続いていた。
そうしてカレンダーが九月に変わった日。
電話をする声やキーボードを叩く音で、少しがやがやとした営業部のオフィスのドアを、本庄さんではない人物がばーんと開けた。
「坂本部長!」
大きな声を上げて入ってきたのは、配送部の部長である田沼(たぬま)さんだ。お腹が出ている中年のおじさんで、その姿はまるでタヌキを彷彿とさせる。
そんなタヌキ……いや、田沼部長は、険しい形相でずんずんと坂本部長のデスクに向かっていく。明らかにお怒りになっているようだ。
けれど、わが営業部の部長様はまったく動じず、ちらりとパソコンの画面から目線だけを上げる。
「何か」
「急に入った、明日配送分の受注、あれはさすがに無理があるだろう! 発注数が多すぎて手が回らんよ」