イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
「私は、本当の奥さんでも彼女でもないんですから……」


周りには誰もいないけれど、一応声を抑えて呟いた。

その直後、そばに来た部長は、車と自分との間に私を挟むようにして立つ。そして、私が背にした車窓にトンッと右手をついた。

まるで壁ドンされているかのような体勢に、ドキン!と心臓が跳ねる。

硬直する私は、パーソナルスペースに入り込んでいる彼の、綺麗な顔を見上げるだけ。


「……なら、これから知ればいい」


わずかに目を細めて私を見つめる彼は、どことなく甘さを含んだ声色で言葉を紡いだ。

その瞬間、あの夜の記憶がフラッシュバックのように蘇る。そういえば私……“部長のことを知りたい”と思ったっけ。

酔っ払ってはいたけど、あれはたぶん本心で。今も、決してこの人と一緒にいるのが嫌なわけではない。


口は悪いし、仕事には厳しくて、自分なりのやり方を貫き通す。でも、思いやりの心もちゃんと持っている人。

そんな彼のプライベートに踏み込んでみたいという気持ちも、少なからずある。彼自身も、私を入れてくれようとしているのだから。

ドキドキと揺れる心を持て余していると、視線を絡ませたまま、部長が口を開く。


「俺は興味あるよ。一葉の味」


…………わ、私の、味!?

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