記念日に愛の言葉を
「はい」
「じゃあ、行こうか」
どこに?と聞く間もなく林チーフは手に持っていたコートを羽織る。そして鞄を手に企画部のフロアを出て行き、私は慌てて後を追った。
「上着取ってこいよ。下で待ってるから」
その言葉に私は足早に更衣室に向かった。ロッカーを開けハンガーにかけていたコートを着て、チーフが待っている一階へと急いだ。
「お待たせしました」
エントランスを抜け会社の外に出ると、冷たい風が容赦なく私に襲い掛かる。
「寒っ」
身体を震わせていると、ふわりと首元が暖かいものに包まれた。
私の首には黒色のマフラーが巻かれている。そのマフラーから林チーフの使っている香水の匂いがし、不意打ちの優しさに胸が高鳴る。
「俺ので悪いが、ないよりましだろ」
「ありがとうございます。でも、チーフが寒いんじゃ……」
「俺なら大丈夫だ」
そう言って私の手を握ってきてた。
街はクリスマス仕様のイルミネーションに彩られ、幸せそうなカップル数組とすれ違う。私たちもそんな風に見えるかな、なんて考えただけで顔がニヤける。
タクシーに乗り着いた場所はよく雑誌で特集されている有名なホテル、ベリルスターだった。