記念日に愛の言葉を

ホテルの中に入り、エレベーターに乗り込む。
着いたのは最上階のスカイラウンジ、ミルジュ。

「予約していた林です」

「お待ちしておりました」

係りの人にテーブル席に案内された。
座りながらにして夜景を見ることができ、宝石をちりばめたような景色に感嘆の声が漏れる。
しかもピアノの生演奏で耳も楽しませてくれて贅沢な空間だ。

「気に入ったか?」

夜景に見惚れていたら、チーフが笑みを浮かべ私を見ていた。

「はい、すごく綺麗です」

「花火の時は空を見上げていたが、夜景は見下ろさないと見えないな」

チーフは夜景に視線を向ける。
林チーフこと林政孝、二十九歳。私の彼氏だ。
黒髪の短髪で、切れ長の目は一見冷たさを感じることもあるけど、すごく優しい人なんだ。
でも、後輩の馬場さんいわく『顔はカッコいいけど口は悪いし性格も歪んでる』と。
仕事の時は厳しいから、そう言われても否定は出来ない。私も最初の頃はあまりいい印象は持ってなかったけど、なぜか目で追ってしまう存在ではあった。

そんなチーフと私が付き合うことになったのは、さっきの“花火”というキーワードが関係している。
あれは約半年前のこと―――。
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