The key to heart
「今日は高校の入学式よね。時間には、私達も行くから」
笑顔でそう言う幸恵さんに、私は「来なくて良いよ」と首を振った。
「えっ、どうしたの?」
幸恵さんの表情が強ばる。
普段はなにも言わない浩二さんが、コーヒーを飲みながら私を見ている。
「言葉の通りだよ。入学式には来なくて良いから。…行ってきます」
2人に有無を言わせず、私はいつもは残さない朝食を残してバッグを持ち、家を出た。
幸恵さんと浩二さんが使っている車の横に停めてある自転車のカゴにバッグを入れながら、ため息をつく。
別に、あの2人のことが嫌いなわけじゃない。
…ただ、信じられないだけ。
昔、見たんだ。
あれは確か、私が中学校に上がって間もない頃。
家には私しかいなかった。
その時の私は好奇心が旺盛で、幸恵さんがいつもここは開けちゃダメだと言っていたキッチンの引き出しを開けてしまった。
その中には、封筒が。
なんだろうと思って見てみると、封筒の中身は紙が入っていた。
書かれている文を目で追う。
『野間紗月さんが中学校に上がったため、支給金が上がります。』
無機質な字。
機械的な字。
だから、わからない。
内容が入ってこない。
私が中学生になるから、支給金が上がる…?
紙の右端には、「自治体」の文字。
どういうこと?
幸恵さんと浩二さんは、私を育てることによって、自治体からお金をもらってるの?
嫌いじゃない。
嫌いになりたくない。
…だけど、信じられない。
だから、私は2人と、少し距離を置いた。
これ以上、なにも知りたくないことを知りたくないから。
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