ゆえん
普段は絶対に解説なんてしない。
だか、沙世子そっくりの顔で意味を考えている理紗には伝えたくなった。
「僕の奥さん、だよ」
冬真があまりにも穏やかで明るく言ったので、理紗は彼の顔をまじまじと見ていた。
「なに」
「あ、いえ……」
理紗は俯いた。
赦しの言葉を聞いたわけではないけれど、冬真の表情から自分のことを本当に恨んでいないと伝わってきた気がした。
理紗の心の中で黒い塊のようなものが砕けた。
自然と涙が出た。
「どうした?」
「いえ、大丈夫です。顔洗ってきます」
理紗の突然の涙に冬真と楓は顔を見合わせた。
化粧室で顔を洗って、理紗は鏡に映る自分の顔を見つめた。
せっかくしてきたメイクが水に濡れて崩れている。
台無しだ。
でも今のこの顔を新鮮に思った。
少なくとも修二に似た誰かを探す必要はもうないことを実感していた。
自分自身にかけていた呪縛を洗い落とした気になれた。
「今日から、頑張ってみよう」
鏡の中のくちゃくちゃの笑顔が頷いていた。