ゆえん
Ⅱ-Ⅱ
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一九七九年の春。
校庭の桜の木には、今年の蕾が膨らんでいるというのに、このままじゃ俺の隣の風景は去年と変わらないままだな。
桑田千里子の声を聞きながら、俺はぼんやりと思った。
中学二年になってクラス替えをしたが、またも千里子と同じクラスになった。
そして初めての席替えで、一年の時と同じように千里子が俺の隣の席を獲得しようと躍起になっている。
千里子とは小学校は別だった。
俺の小学校にここまで積極的な女子はいなかったように思う。
入学式の次の日から、千里子は俺によく話しかけてきた。
明らかに俺に好意を持っていることはわかっていた。
ショートカットがよく似合い、その性格と頭の良さと、スポーツも万能で、誰からも『出来る女子』と一目置かれていた千里子に好かれていることは悪い気がしなかった。
ソフトボール部では一年の二学期からエースとして活躍をしているくらいだ。
それに比べ、俺はどこにでもいる少しやんちゃなただの中坊だ。
体を動かすことは好きだったが、特にこれといって、人に勝る競技はない。
中学に入ってからエレキギターを弾くようになって、これだけはもっと上手くなりたいと思っているが、まだまだ未熟だ。
そんな俺を何故に千里子がそこまで好いてくれていたのか、俺自身が一番疑問に思っていた。
「学年の中で浩介が一番カッコいいからに決まっているじゃない」
千里子は何の迷いもなく、いつもそう答えていた。