ゆえん
そんな前置きがあったから、俺は楓の母親を悪い方にばかり想像していた。
楓と似ていればなお、おばちゃん丸出しの風貌だったら、ショックだよなぁと思っていた。
楓が家の玄関を開けて「ただいまぁ」と言った後、「おかえりなさい」の声と共に、玄関から真っ直ぐに延びた廊下の先のドアを開けてこちらに向かってきた楓の母親を見て、俺は驚いてしまった。
その人は本当に楓によく似ていて、瓜二つの姉妹のように見えた。
華奢な体つきで、とても中学生の子供がいる人には見えない。
女性というより、女子と言ったほうがしっくりくるだろう。
青いエプロンがその体に大きく感じる。
「あなたが浩介君ね。こんにちは。ちょうど、クッキーが焼きあがったところなの。久しぶりに作ったから、時間がかかっちゃった。さあ、あがって」
「あれー、ママ、今日はちゃんとしている方だ。浩介君が来るから?」
「だって、楓に恥を掻かせちゃいけないと思って」
楓は俺の顔を見ながら舌を出した。
「まえおき、しなきゃ良かった」
楓が前置きした分、想像とのそのギャップが大きく俺の心に印象づけられた。
うちの母親よりもずっと若くみえた。
けれど、この人は幾つなのだろうと、初めて同級生の親の年齢を気にした。
「パパが家にいると、ママはいつも綺麗にしていて、もっと素敵なんだよ」
楓が得意げに俺に言う。
本当は楓にとって自慢の母親なのだろう。
父親がいないときの母親の様子を話していた顔とはえらい違いだった。