ゆえん
楓の母親は楓と俺の話をよく聞いては笑い、話題にも加わってきた。
楓も自分の部屋に行こうともせず、母親が一緒に俺たちといることを当たり前のようにしていた。
「わたしのこと、楓のお母さんとか、おばちゃんって呼ぶのはやめてね。そうね、瞳さんって呼んでくれると嬉しいな」
瞳さんはにっこりと微笑む。
「ママって、まだ三十五歳だから、おばさんって呼ばれたくないんだって」
「はぁ」
同級生のお母さんは、誰だって『おばちゃん』と呼んできた俺には少し抵抗があったけれど、確かにこの人をそう呼ぶのは似合わない気がした。
同級生の母親に鼓動が高鳴ったのは生まれて初めての経験だ。
自分の心臓の音に自分が驚いている。
この日、結局最後まで俺は楓の部屋を見ることなく、リビングで三人一緒にトランプをしたり、楓のアルバムを見たりして時間が過ぎた。
楓と二人きりになれなくて俺は少し残念な気もしたが、可愛い楓と、若くて綺麗な瞳さん二人と過ごす時間は、ふんわりとやわらかく居心地が良かった。
二人は本当に親子というより、仲の良い姉妹のようだった。