ゆえん
千里子のそれが好意でないと気付いたのは、二学期の期末テストの結果が出た時だった。
楓の数学は今までで一番悪い点数になっていた。
俺は千里子の頭の良さを甘く見ていたのかもしれない。
そして千里子の性格を把握していなかった。
千里子は楓に少し手を加えた公式を教えていた。
つまりそれは公式ではなく、謝った答えを導き出すように意図して作られたものだった。
千里子の頭の良さは、楓が教科書と違う公式に疑問を持っても、千里子が教えた公式のほうが簡単に答えを出せるように思わせることが出来るところにも現れた。
このテスト結果で、楓は担任に音根高校の入試だけでは危ないとまで言われ、楓は滑り止めに私立の高校も受けることになった。
「なんで、こんなことをしたんだよ」
「浩介がいけないんでしょ。私より、楓と親しくしている浩介が悪い。誰だって感情があるんだから。それを無視し続けた浩介のせいよ。それに楓と浩介が同じ高校にならないようにするのは、私としては当然のことじゃない。浩介の隣を譲ってくれなかったくせに、勉強のことだけ私に頼ろうとした楓の自業自得よ」
千里子は謝るどころか、自分のしたことを正当化していた。
俺は千里子という同級生を買い被っていたことに後悔した。
もっと優しい人間だと思っていた。
スポーツウーマンでもある千里子がこんな卑屈な考えをするとは想像できなかった。
根に持たれることの怖さを初めて味わったのだ。
今、思えば、この頃から、楓と瞳さんに良くないことが起こり始めた気がする。
楓は何とか音根高校に合格することが出来たが、滑り止めの私立校に入学金を払う出費を、瞳さんは夫の純一さんに内緒にしていたことが、もっと後で違う形になって影響を及ぼした。