ゆえん
Ⅰ-Ⅱ
*
冬真は十五歳の時に貯めていた自分のお小遣いでエレキギターを買った。
一番影響を受けたミュージシャンは冬真と同じ町の出身であり、東京で活躍していた葉山浩介だ。
その彼が、冬真が大学一年生になって初めてバンドを組んだ時にこの町に戻ってきた。
そしてライブハウス『Rai』をオープンさせたのだ。
葉山浩介の名はこの小さな町の誰もが知っている。
今の穏やかな印象からは想像もつかないほど、学生時代はやんちゃだった浩介は、十三歳のときにエレキギターに出会い、高校卒業と同時に東京へ行ってしまった。
地元の人間はその二年後に、メディアを通して彼の名を耳にすることになった。
浩介は当時最前線で活躍していたロックバンドのスタジオミュージシャンを経て作曲を学び、あらゆるミュージシャンに楽曲を提供し始めた。
そのうちの一つが爆発的なヒット曲となり、その後もヒットメーカーとして一線で活躍するようになっていった。
この町出身者では数少ない全国的にその名を売った人だ。
そして、順調そのものの音楽活動を送っていた最中に地元に帰ってきた男であった。
「この町が好きだからね。それに音楽は何処にいても出来るから」
笑いながらインタビューに答え、妻の楓に微笑みかけたテレビの映像は、冬真の記憶から消えることはない。
冬真は音楽だけではなく、同じ男として浩介の行動に今まで以上に興味を持った。
それと同時に冬真は、浩介の隣で微笑む楓の存在を知った。
不思議な感覚が体の中に走った瞬間でもあった。