ゆえん


要司と正幸に、しばらくの間、バンドの練習をしていた時間にアルバイトをすることを俺は告げた。


「お前がアルバイトした金を出しても、受け取るとは思えないぞ」と要司は言ったが、練習に出られないことには納得してくれた。

正幸はなんとも言い難いといった表情で頷き、了承してくれた。



学校帰りにホームセンターの倉庫管理のアルバイトを始めた俺は、一ヶ月働いたその給料を持って、楓が帰ってくるのを彼女のアパートの前で待っていた。

そこに先に瞳さんが帰ってきた。


「また、これから出るのだけど、中で待っている?」


俺をアパートの中に入れてくれた瞳さんの横顔は、最初に会った頃から比べると、頬がこけてやつれて見えた。

今なら歳相応に見られる気がした。

それでも瞳さんは美しい。

溜め息ひとつさえ、胸に響く。

俺の感覚はどうしたというのだろう。


「ねぇ、最近楓の帰りが以前より遅いのだけど、浩介君は何か知っている?」


静かな口調でそう訊かれ、俺は返事に詰まった。


「最近この町でも質の悪そうなのを見掛けるから気をつけるようにと、うちの店長が言っていたの。帰りが遅いと心配だわ。あのコ、私に内緒で何かしているのかしら」

「え」


楓との約束だから、俺が言うわけにはいかない。

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