ゆえん
「楓は、私のことが心配なんでしょうね。世間慣れしてない、無知な母親を持つと、気苦労が絶えないんだろうな。だから私に相談してこない。親失格ね。私は高校を卒業しただけですぐに家庭に入ってしまったから。全て順一さんに任せて、その大きな腕の中で何もせずにここまで来てしまったから。今になって自分の無力さを突きつけられているの」
瞳さんの力ない表情を見て、俺は何とかしてあげたかった。
このタイミングで出すのが最善とは思えなかったけれど、俺は持ってきた自分のアルバイト代が入った袋を、瞳さんに差し出した。
「なに? これ」
「その弁護士費用に使ってください。たいして入ってないですけど」
「え、コレあなたのお金なの?」
「少しでも協力できたらと思って。来月も同じくらい稼げると思います」
「いらないわ。もらえるわけない」
「でも、使ってほしいんです。二人に協力したくて」
瞳さんは深く溜め息を吐いて俺を見据えた。