ゆえん
「浩介君は楓のことが好きなの?」
瞳さんのその質問で、俺は楓を改めて好きな人と認識したような気がした。
「好きなんだと思います」
そうだ。
好きだからほっとけないし、協力したいし、気になるのだ。
でも、楓だけを好きなのか、俺はもしかしたら……という気持ちが湧き上がる。
「なら、今すぐアルバイトなんか辞めて、自分にたった一つしかないものに集中しなさい」
「え?」
「その体一つで、好きな女の子の将来さえも守れるくらいの男になりなさい。今でなきゃ出来ないことがいっぱいあるはずよ。そして大きな男になって。楓をも成長させて。そうじゃないと楓をあげられないわ」
瞳さんは小さく笑って、アルバイト代が入った袋を俺に掴ませた。
玄関の開く音がして、振り返ると、そこに楓の姿があった。
走って帰ってきたのか肩で息をしている。
「あれ、浩介、来ていたんだ?」
「うん、楓の帰りを待っていたら、瞳さんのほうが先に帰ってきて」
「楓、大丈夫なの?」
「はい? 何が?」
瞳さんは楓の正面に立って、楓を抱きしめた。
「どうしたの?」
「あなたはアルバイトをもうしなくていいから、これからの自分の進路をしっかりと考えて見つけなさい」
楓は瞳さんの背中に手を回して、その手にグッと力を込めて、抱きしめ返していた。
姉妹にしか見えないようだった瞳さんだが、やはり大人で、楓の親なのだ。
それに比べて俺たちはただの高校生で、目の前のことしか見えてない。
俺はポケットに押し込んだ袋を手で握り締めながら、瞳さんに言われた言葉を噛み締めていた。