ゆえん


冬真が通う大学内で、新入生の中で一番の美人だと噂されていた沙世子と出会ったのも『Rai』だった。

初めて彼女の顔を見たときは、噂に違わぬ美人だなと思った。

冬真は後で知ったのだが、沙世子は大学内で冬真を何度も見掛けていた。

ほとんど喋らず、クールな印象の冬真のことが気になっていたと彼女は言っていた。

その彼が、熱心に通っているらしいと耳にした『Rai』にも興味を持ったらしい。

沙世子は女友達を誘って『Rai』に足を運ぶようになり、ステージの上の冬真の姿をずっと見ていた。

ドラムを叩く冬真の姿に、沙世子はますます惹かれていった。

その視線を冬真はなんとなくだが気付いていた。


そしてとうとう沙世子が行動に移す。

大学構内で二人がすれ違ったときに、沙世子が冬真に声を掛けたのだ。


「岸田冬真くん、今度一緒に『Rai』に行かない?……ですか?」


 これが、二人のハジマリだった。

     *


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