ゆえん
Ⅱ-Ⅷ
クリスマスイブに最終チェックも兼ねて、リハーサル演奏をすると決めていたこともあって、要司も正幸も練習には力が入っていた。
「どうせなら、ライブハウスとかでやってみたいよな。クリスマス・ライブとかいうの」
スティックを器用にクルクル回しながら正幸が言った。
「地元にライブハウスが一つも無いんだからな。ホント、田舎だよな」
要司がつまらなそうに言うのを見て、なんだ、要司もそういうとこでやってみたいと思っているんだと気付いた。
「俺は、ここで大人しく待ってらんない。高校卒業したら、東京に行く」
ギターを拭きながら、俺は東京に行くことを宣言してみた。
「俺も大学は東京の大学受けるから、また向こうでも会えるな」
要司が言うと、何故か現実味が湧く。
ここで宣言したのだから、やっぱり行かないなんて男として絶対言う気はない。
「俺だけか、こっちに残るのは」
正幸は少し淋しそうだ。