ゆえん

楓は、ドアノブを両手で持って、恐る恐る開けるといった感じだった。


「どうしたの?」


楓が小刻みに震えているのが分かる。

俺は楓の後ろに視線を向けて、この異変に気付いた。

髪の毛が部屋中に散らばっている。

そしてその先には呆然と立っている瞳さんの背中が見えた。

瞳さんの長かったはずの髪は見る影が無い。


「ひ、瞳さん?」


俺の声に肩がビクッとなって、瞳さんはゆっくりと振り返った。

額から血を流し、無造作に切られ短くなった髪の一部が血の色に染まっている。

俺は楓の横を通り、瞳さんの今にも倒れそうな体を支えた。


「いったい、どうしたんですか?!」

「浩介君……。人って怖いのね」


そう呟いて、瞳さんは目を閉じた。


「楓、何があった?」

「男の人が、いきなり……瞳さんともめて……はさみ持っていて……」


説明する声も震えている。

何があったというんだ。

ああ、俺が時間通りに来ていれば……。


< 159 / 282 >

この作品をシェア

pagetop