ゆえん
楓は、ドアノブを両手で持って、恐る恐る開けるといった感じだった。
「どうしたの?」
楓が小刻みに震えているのが分かる。
俺は楓の後ろに視線を向けて、この異変に気付いた。
髪の毛が部屋中に散らばっている。
そしてその先には呆然と立っている瞳さんの背中が見えた。
瞳さんの長かったはずの髪は見る影が無い。
「ひ、瞳さん?」
俺の声に肩がビクッとなって、瞳さんはゆっくりと振り返った。
額から血を流し、無造作に切られ短くなった髪の一部が血の色に染まっている。
俺は楓の横を通り、瞳さんの今にも倒れそうな体を支えた。
「いったい、どうしたんですか?!」
「浩介君……。人って怖いのね」
そう呟いて、瞳さんは目を閉じた。
「楓、何があった?」
「男の人が、いきなり……瞳さんともめて……はさみ持っていて……」
説明する声も震えている。
何があったというんだ。
ああ、俺が時間通りに来ていれば……。