ゆえん
「楓、119番と、110番だ。早く!」
「あ、はい」
こんな時はどうすればいいんだ。
俺は何をしたらいいんだ。
十七年間生きてきて、こんな場面に遭遇することなんてなかった。
電話を掛け終えて戻ってきた楓は、タオルを水で濡らし、絞ったもので瞳さんの額の傷を押さえた。
「血が止まるかな……」
まだ声は震えている。
俺と楓はお互いの顔を見た。
どうしようもない不安が楓の顔に溢れている。
こんな時に俺は掛ける言葉もみつからない。
どうしようもなく子どもなんだ。
「もうすぐ救急車が来る。大丈夫だ」
瞳さんの顔を見ると、青白かった。
今にもどこかに連れて行かれそうな不安に震えが来る。
救急車、速く来い。
速く来いよ。
俺は念じるしかなかった。