ゆえん
「女性には受けると思うのよね。ダイエットや健康に関心のある人が多いし、きっと注文も増えると思う」
今日も葉山楓が店に来ている。
この店では大抵、彼女の提案通りになる。
楓は提案するだけで実際の作業は店長の岸田冬真か、私がやる羽目になるのに、いつも新しいことをこの店で始めたがる。
蒸し暑い季節が終わって、店のコールドドリンクバーの売り上げが少し落ちたから、新しいことをやろうと言うのだ。
「んー、そうですね」
ほら、冬真さんが困っている。
本当は断りたいのだろうと私は感じている。
でも、彼は楓の言うことを無碍には出来ない。
今回の楓の提案は、デザートについてだ。店で毎日、和と洋のデザートを一種類ずつ出しているのだが、それに加えベジタブルデザートというものを始めたらどうかと言い出したのだ。
ポジティブが売りの、おせっかいなおばさんだと私は思うのだけれど、この人はこの店のオーナーである葉山浩介の奥さんであり、私が見る限り、冬真さんもこの女を大事に思っている。