ゆえん
私は楓のことが好きではない。
何より冬真さんのことを『冬真君』と呼んでいるのが面白くない。
私は心の中で『冬真さん』と呼んでいるけれど、実際には未だに『店長』としか呼べないでいる。
「あの、一日おきにしたらどうですか? 和でベジタブル素材のデザートを出した翌日は洋で出す形で。そうすれば実務的な負担は大きくならずに済むと」
楓が私の顔を見て手を打つ。
「そうね、理紗ちゃんの案でしばらく様子を見てみましょうか」
「そうですね」
冬真さんが静かに息を漏らす。
きっとほっとしているのだ。
楓に対しての気持ちを隠し、敬語を使って話すことに私は慣れてきた。
私の案に楓は微笑んでいるけれど、余計なことを言うなと思っているかもしれない。
でも、気にしない。
親切そうな顔をする年上の女は私の人生の最大の敵だから。