ゆえん
その菜穂が、私の十六歳の誕生日に、修ちゃんを奪って逃げた。
人妻が大学生と駆け落ちなんて、悪女の見本のようなことをやってのけたのだ。
二人の関係に全く気付かなかった私はまんまと利用された訳だ。
多感な時期の十六歳の誕生日をあの女に踏み躙られた。
それからの十年は修ちゃん探しの年月だった。
修ちゃんの本心を確かめたかった。
本当は私のことをどう想っていたのか。
修ちゃんの口から出る言葉しか信じたくない。
可愛いと言ってくれたことも、頭を撫でてくれた手も、嘘だったなんて思えない。
でも、何の情報も得ることが出来ないまま、日々は過ぎていった。