ゆえん


その菜穂が、私の十六歳の誕生日に、修ちゃんを奪って逃げた。

人妻が大学生と駆け落ちなんて、悪女の見本のようなことをやってのけたのだ。

二人の関係に全く気付かなかった私はまんまと利用された訳だ。

多感な時期の十六歳の誕生日をあの女に踏み躙られた。



それからの十年は修ちゃん探しの年月だった。

修ちゃんの本心を確かめたかった。

本当は私のことをどう想っていたのか。

修ちゃんの口から出る言葉しか信じたくない。

可愛いと言ってくれたことも、頭を撫でてくれた手も、嘘だったなんて思えない。

でも、何の情報も得ることが出来ないまま、日々は過ぎていった。



< 184 / 282 >

この作品をシェア

pagetop