ゆえん
Ⅲ-Ⅲ
レシピノートを捲りながら、冬真さんは難しい顔をしている。
早速楓の提案通り、明日のデザートのメニューに野菜のものを出そうと考えているのだろう。
彼が手にしているレシピノートは、彼の亡くなった奥さんのものだ。
そう、私とそっくりだという岸田沙世子の。
沙世子さんが亡くなって、もう五年になるのに冬真さんはレシピノートを愛おしそうに眺めている。
どんなに顔が似ていても、私は理紗であって、沙世子さんに成り代わることが出来ない。
偶然とはいえ、彼が最愛の家族を亡くした事故に、私は無関係ではないのだから。
「これ、どう思う? オクラで白玉団子を食べるって」
冬真さんが私のほうに歩み寄って、ノートを見せてくれた。
「そうですね、手間も大してかからない感じですし、明日の和菓子はこれでも大丈夫ですよ。私、作ります」
「そうしてくれると助かる」
「お安いご用です、店長」