ゆえん
そこで冬真は目を覚ました。右腕は天井に向けて真っ直ぐに伸ばしていた。
その右手を自分の額の上に下ろし、カーテンの隙間から入ってきた光の眩しさに目を覆った。
昨晩に激しく降っていた雨はすっかりあがっていて、カーテン越しでも天気の良さを感じた。
はっとして体を起こす。
ベッドの隣には誰も居ない。
あるはずの小さな枕もない。
一気に今の意識があるほうが現実だと突きつけられる。
まただ……。
もう四年も経つというのに、冬真は時々こういった夢を見てしまう。
どうせ見るなら、幸せだった頃を見させて欲しい。
大きく溜め息を吐き、テレビの上に置いてある家族三人で写っている写真を眺めた。
たとえ幸せだった頃の夢を見ることが出来たとしても、それは二度と戻っては来ない日々。
大きく溜め息を吐いて立ち上がり、寝室を出る。
三人で過ごした一軒家は、今の一人暮らしには広過ぎるが、冬真はここから引っ越すつもりはない。
洗面台の前に立ち、顔を洗う。
一人でも生きていかなくてはいけない。今日も店を開けるのだ。