ゆえん
「マユちゃん、ごはんだよ。こっちへおいで」
冬真さんが声を掛けたが聞こえていないのか、マユはまだテレビを観ている。
「マユ、おいで」
冬真さんはマユに歩み寄り、頭を撫でる。
マユはテレビを観たまま、動かない。
テレビの画面は子供を迎えに来た母親が、何度も頭を下げているシーンが映し出されていた。
「ママ」
か細い声でマユがまた「ママ」と言った。
冬真さんはマユを抱き上げ、ぎゅっと抱きしめる。
マユは冬真さんの胸に顔をこすり付け「ママどこ?」と訊いた。
「マユのママは、今病院に居るんだよ。治ったらマユを迎えに来るよ。それまで、冬真と……」
そこまで言って冬真さんは一度私の顔を見た。
「冬真と理紗と三人で居ような」
驚きのあまり、私は目を見開いてしまう。
冬真さんが私を「理紗」と言ったなんて。
「トウマと、リサ?」
マユは顔を上げて、冬真さんと私の顔を交互に見た。
「そう。さあ、スパゲッティを食べよう。三人で食べるとおいしいぞ」
マユを抱いたまま、冬真さんがテーブルまで来たので、私もテーブルに向かい席に着いた。