ゆえん
Ⅰ-Ⅳ
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今年の五月は例年より気温が高く、晴天が続いているせいか、『You‐en』の店内でアイスドリンクを注文する人が多くなった。
日に日に『You‐en』の利用者は増えてきて、セルフサービスとは言っても、日によっては冬真と楓だけでは仕事をこなすのが厳しくなってきていた。
あまりにも忙しい時は、浩介の『Rai』のほうから店員を一人寄こしてくれるのだが、『Rai』は毎年寒い冬が終えた後から忙しくなる。
対策法の一つとして、楓は冬真にドリンクバーの設置を提案した。
「冬真君の煎れるコーヒーのファンもいるから、今までのドリンクメニューは残したほうがいいと思うの。とりあえずアイスドリンクのみドリンクバーも設置してみて様子を見てみましょう」
「んー、でもそこら辺のファミレスとかって、ホット込みのドリンクバーになっていますよ」
「いいのよ。他と少し違うほうが。その分、少しドリンクバーの値を下げてもいいし。クールなイケメン店長と少しでも話をしたい女性たちは、今まで通りのドリンクを頼んでくれるはずよ」
「……おちょくっているんですか」
「これが女性の心理ってものよ」
「まったく理解できませんけど」
「そういうものなの」
どんなに不可解なことも、思わず頷いてしまいそうな楓の笑顔を目の前にして、冬真自身の口元も緩んでいた。
楓の言うことに反論するつもりなんてない。
彼女の意見は何でも受け入れたくなる。
きっと浩介もこの妻の願いを、何でも叶えてやりたいと思っているのだろうな。
冬真は静かに頷いて、「じゃあ、楓さんの言う通りにやってみます」と微笑んだ。