ゆえん


「今日のマユちゃんはよく動くね。慣れてきたのかな」


今朝のことを知らない楓は呑気に子供の順応性に感心していた。

 ¥また冬真さんの元に戻って行って「リサがきってるのは、すっぱいトマトだって」と伝えると、冬真さんは手を止めてマユを抱き上げた。

そのまま、私のいるコンロの傍にやってきて、トマトを一切れ取り「これ、いい?」と訊くので私は頷いた。

そのトマトを冬真さんは自分の口に入れる。

とても美味しそうな表情で食べ終えた後「この酸っぱさが美味しんだよ」とマユの顔を見た。

マユは冬真さんの動く頬に手を添えながら、じっと冬真さんの顔を見ている。

大人の私から見ると大袈裟な感じに美味しそうな表情をしている冬真さんがとても新鮮だった。

私も一切れ口に運び、しみじみとトマトの酸っぱさを称賛した。

マユは冬真さんと私の顔を交互に見た後「マユも」と言ってまな板の上のトマトに向かって小さな手を伸ばす。

手のひらに一切れを載せてあげると、トマトをじっと見た後、口に含んでいた。


「すっぱい!」


小さな顔をきゅっと中央に縮めるようにした後、マユは小さな手を自分の頬に当てた。


「でも美味しいだろ? この酸っぱさが美味しいよな」


冬真さんは暗示にかけるように言い、私に同意を求めるような目を向けた。

「本当、美味しいトマト」と私が言うと、リサは自分の頬と手で拍手をしながら「おいちいね」と言った。

その姿は本当に愛らしくて、自分の表情が緩むのを実感した。

冬真さんを見ると、彼も優しく穏やかな笑みを浮かべていた。


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