ゆえん


マユと出会ってまだ三日目だが、私は子供の存在の凄さを実感していた。

ことに冬真さんの表情や態度の違いは大きかった。

クールな印象は彼が家族を亡くしたことによるものでしかないのかもしれない。

愛すべき存在に惜しみなく愛を注げる人なのだと気付かされた。

亡くした家族も、この店も、葉山浩介にもそして楓にも、冬真さんは惜しみなく自分の愛を注ぎ続けているのだろう。

だからこそ、浩介さんが連れてきた私を、この店で受け入れてくれているのだ。
 
同時に私はいつもに増して自分の愚かさと罪の深さを思い知る。

私はそんな風に生きたことがないと思った。

修ちゃんに恋をした。

彼を好きになって彼も私を好きでいると思っていた。

でも結局、私一人の感情であって、修ちゃんは他の女のことを愛していた。

そうでなければ、私の誕生日だと知っていながら、菜穂とこの町を出て行くなんてことをしなかっただろう。

死んでしまってからもなお、冬真さんの心を自分に向けさせておくことが出来る沙世子さんと、ほぼ毎日会っていても、冬真さんの心に入っていけない私。

瓜二つと言われても、沙世子さんと私では天地の違いがある。



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