ゆえん


暖かい日差しが窓から入り込む午後になると、学生が足を運んでくる時間帯まで『You‐en』は暇になる。

いつもは大抵、休憩室のソファーで新聞を読むか、仮眠をしている冬真さんが、今日はマユと手を繋いでカウンターにやってきた。

その手にはいつ買ったのか、シャボン玉セットがあった。


「ちょっと公園で遊んでくるよ。客が来たら携帯に電話してくれるかな」

「あ、はい」

「トウマとシャボン玉、するの」


マユはとても嬉しそうだ。

冬真さんもなんだかいつもと感じが違い、すっかり父親風の面構えでマユの手を握っている。

「いってらっしゃい」と声を掛けると「いってきまぁす」とマユが元気良く言った。

私はいつまで経っても沙世子さんの代わりになれないのに、マユはもう冬真さんの子供のように振る舞っている。

彼の色んな面を見られるのは嬉しいが、あんなに小さい女の子に嫉妬してしまう自分がいた。

でもそれは、楓や沙世子さんに対してのものとは違って、嫉妬している自分に笑ってしまえる程度のものだ。


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