ゆえん
Ⅲ-Ⅶ
浩介さんが楓と一緒に『You‐en』に来たのは夜だった。
冬真さんが浩介さんの耳に何かを告げている。
それを見ていた楓は、エプロンを首に掛けてカウンターに出た。
「私が店のほうやるから、大丈夫よ」
気を利かせるタイミングをよく心得た妻に浩介は笑顔で「頼むな」と言った。
冬真さんは浩介さんを厨房に連れてきた。
私はこの場に居ていいのか分からなかったが、スープを煮込んでいる最中だったため、その場で作業を続けることにした。
浩介さんは冬真さんから美穂子が残したメモを渡された。
さっと見て、少し口元を緩め、そして正面にいる冬真さんの顔を見る。
「訊いてみてもいいか」
「何を?」
「お前はこれを見て、どう思ったんだよ?」
冬真さんは少し首を傾げた。
その表情は深刻な話題をするという感じではなく、クイズの答えを考えているような顔だった。