ゆえん
「和のデザートってあと幾つ残ってたかな?」
客席で常連客と談笑していた楓が厨房に戻ってきた。
「あと三つですね」
何事もなかったように、冬真さんがカウンターへ戻っていった。
「冬真が好きか」
浩介さんは直球で訊いてくる。
この人に嘘を吐いても無駄だと思う。
けれど言葉に出来ない。
「……」
「そうだな、あいつは惚れてもいい男だ。でも、理紗は辛いかもしれないぞ。あいつから沙世子は消せない」
「そんなこと、わかっています」
「なら、罪悪感なんて捨てて行動あるのみだ」
浩介さんから後押しされるとは思っていなかった。
「でも、冬真さんの気持ちは」
「理紗が相手の気持ちを考えるまで成長しているなら大丈夫だろう。それに冬真は女に対して自分から行動する奴じゃない」
浩介さんはふっと笑った後、メモを手にしたまま、カウンターへと出て行った。
スープの鍋をかき回しながら、私は浩介さんの言葉をよく考えてみた。
私は言ってしまってもいいのだろうか。
自分の想いを冬真さんに。
浩介さんはそう言っているのだろうか。