ゆえん
「楓さんは二回流産して子供を産むことが出来なくなったんだ。だから本当に浩介さんの血を引く子供が欲しいんだよ」
「でも、ほかの女との子供ですよ」
「マユは浩介さんの子供じゃないよ。楓さんはそれを分かっている」
「あのメモを見ても?」
「そう。浩介さんだって自分の子じゃないって分かっているから」
夫婦とは口に出さなくてもそこまで分かるものなのか。
私の理解を超えた絆みたいなものを突き付けられた気分だ。
そしてそれを冬真さんも理解しているなんて。
「ママ!」
マユの声が大きく響き、冬真さんと私は目を見合わせた。
まさか、美穂子がやってきたのかと、私たちはカウンターに向かった。
「本物の葉山浩介だ」
美穂子らしき言葉と声がした。
目に入ってきた姿は、やはり美穂子本人だ。
娘の名前を呼ぶより、葉山浩介の名を口にするとは赦し難い。