ゆえん
「ママをおこらないで」
私の形相に驚いたのか、マユが小さな声で言った。
「すいません。私の育て方が悪かったんです。もう二度とこんなことはさせませんから」
美穂子の母親は何度も頭を下げていた。
冬真さんはマユの目の高さまでしゃがんでマユをそっと抱き寄せた。
「マユはママが大好きなんだな」
「うん」
「いい子だ。またいつでも遊びにおいで。トウマも、リサもここに居るから」
「うん!」
「カエデとコウスケもいるからね」
楓が冬真さんの後ろからマユの頭を撫でた。
「葉山浩介、本人ですよね? サインもらってもいいですか?」
この場に及んで、美穂子は浩介さんの前に行き、サインを欲しがった。
「なんて母親なの」
声を震わせながら私が言うと、美穂子は「いいじゃない。地元の英雄なのよ」とバッグの中からハンカチを取り出し、浩介の前に差し出した。
苦笑いをしながら浩介は、マユに「ちょっと貸して」とマユのリュックを持ち、その背の部分でペンを動かした。
『リトルえんじぇるのマユへ』
そう書いた下に浩介さんはサインと日付を書き、美穂子に渡す。
美穂子は複雑な表情をして受け取っていた。