ゆえん
「マユが居ないと、静かだな」
「……私も、出て行かないと駄目ですか」
言いたくなかったけれど、当然のことだ。
マユが居たから私がこの家に居ることを許されたのだ。
冬真さんから言われる前に自分で口にするほうが、寂しくないように思った。
冬真さんは黙ってココアを飲んでいる。
私は泣いたせいで自分の目は腫れていることに気付き、カップに添えていた右手で目元を覆った。
「すみません。当然ですよね」
「ここに居たい?」
冬真さんがカップを置いて、大きく息を吐いた。
「理紗はここに居たいと思っている?」
冬真さんは今、「理紗」と言ったことを自覚しているのかな。
私を見ないで自分のカップを見つめているけれど。
今は私を見てもらえなくても、同じ屋根の下で暮らしていれば、いつか私を見てくれると私は信じたい。
「はい。出来ればずっと」
一度この家から離れてしまったら、もう二度と冬真さんと暮らすことは出来ないような気がした。
結果はどうであれ、私は今、自分の心を素直に冬真さんに伝えたい。
冬真さんは膝に肘を載せ、頭を下に向ける。