ゆえん



「うん、いいね」


絵を見て満足そうに頷く楓と、沙世子との想い出が、冬真の心を温かいものでいっぱいにしてくれた気がした。

やっと冬真は普段の顔を取り戻す。

こうやって楓には弱いところを無防備に曝け出しているのだろうと自覚している。

その楓が冬真の日常で最も多い時間を共にしている人になってきている。

いずれ確実に冬真は沙世子ではない誰かと過ごす時間が沙世子と過ごした時間より多くなるのだろう。

この店を続けていく上で、それが楓になっていくことが無性に切なくなるときがあった。

だが浩介や楓に対しての恩に、背くわけにはいかない。

今のままでいい。

それがいい。



楓はヨガのインストラクターもしており、毎週火曜日と木曜日は、『You‐en』のホールでヨガ教室を開いている。

午前中は中高年、主婦たちに教え、夜はOLたちが習いにやってくる。

木曜日の今日も、午前十時半からの教室に参加する面々がそろそろやってくるはずだ。

冬真はスイッチを切り替えたかのように、カフェの準備に取り掛かった。



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