ゆえん
     *

一番近くの大学から『You‐en』までは、歩いて四十分は掛かる。

それでもここを利用する学生バンドマンたちは、浩介が経営する『Rai』でライブをするきっかけが欲しくて来ていることが少なくない。

『Rai』でのライブを自分たちで申し込むことが出来るのは、原則的に社会人バンドのみとなっている。

『You‐en』も浩介が経営していることを知っている者たちは、浩介がここに顔を出すことがあると知っていて、ここでの練習風景を浩介が偶然見てくれることを期待しているのだ。

浩介の目に留まれば、特例で学生バンドでもライブをすることが出来る。

『Rai』には浩介の音楽関係者が来ていることがよくあるので、道が開けるかもしれないという期待を胸に秘めているのだろう。

大学生に関してはこの町の出身者か、スタジオを使うという目的があるか、『You‐en』でしか食べることの出来ないレアチーズケーキや沙世子のレシピノートの中のデザートが好きだというお馴染みの学生がほとんどだった。

しかし、今日はやたらとカフェコーナーに大学生がやってきた。

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