ゆえん


「学食みたいになっちゃってるね。どうしちゃったの」


楓は驚きを隠せないでいる。

大学生の多さに他の客もたじろぎ、中にはカフェコーナーを覗いた時点で帰っていく高校生もいたくらいだ。

そこへ先日、平手打ち騒ぎの当人である滝本がやってきた。

学生たちの間から声が上がり、その人数の多さに滝本は驚きを隠せないでいる。


「お前ら、なにやってんだ?」

「いや、ここに来れば、滝本を振った女の顔が拝めるって聞いたからさ。どんなコかなぁって」

「お前を振るくらいだから、さぞかしいい女じゃねぇのってさ」

「ふられたわけじゃねえよ」


一同がニヤニヤとした表情を見せる。

その中には滝本を叩いた女子大生の姿もあった。

滝本は罰の悪そうな顔をして、何も注文しないまま、一番奥の席にドカッと座った。

背も高く、気の強さが表情に出ているが、滝本はなかなかのルックスの持ち主だ。

大学内でも人の目を引くだろう。

学生たちの会話を耳にしながら、嫌な予感がしていた冬真はここに理紗が現れないことを祈った。


< 36 / 282 >

この作品をシェア

pagetop