ゆえん
「学食みたいになっちゃってるね。どうしちゃったの」
楓は驚きを隠せないでいる。
大学生の多さに他の客もたじろぎ、中にはカフェコーナーを覗いた時点で帰っていく高校生もいたくらいだ。
そこへ先日、平手打ち騒ぎの当人である滝本がやってきた。
学生たちの間から声が上がり、その人数の多さに滝本は驚きを隠せないでいる。
「お前ら、なにやってんだ?」
「いや、ここに来れば、滝本を振った女の顔が拝めるって聞いたからさ。どんなコかなぁって」
「お前を振るくらいだから、さぞかしいい女じゃねぇのってさ」
「ふられたわけじゃねえよ」
一同がニヤニヤとした表情を見せる。
その中には滝本を叩いた女子大生の姿もあった。
滝本は罰の悪そうな顔をして、何も注文しないまま、一番奥の席にドカッと座った。
背も高く、気の強さが表情に出ているが、滝本はなかなかのルックスの持ち主だ。
大学内でも人の目を引くだろう。
学生たちの会話を耳にしながら、嫌な予感がしていた冬真はここに理紗が現れないことを祈った。