ゆえん
「まずは頬を冷やさなきゃね」
楓はカウンターの中に入り、奥からハンドタオルを持ってきて水で絞り、理紗に手渡した。
「いらない」
理紗はハンドタオルを置いた。
「……一度、ゆっくり話さない?」
理紗の顔を覗き込むようにしながら楓が言った。
「え?」
「あなたのこと、知りたいなって思って」
理紗は楓の顔をじっと見た。
「……私、基本的に年上の女性って信用してないから」
「あら」
「お騒がせして済みませんでした」
立ち上がり、理紗はカフェコーナーから出て行った。
「なんか、嫌われているみたい
」
楓は肩を竦めて冬真に苦笑いをして見せた。
「楓さんを嫌っている、というわけではないですよ、きっと」
どの言動をとっても、明らかに理紗は沙世子とは違う人間で、それらは似ても似つかない。
沙世子ではないことはわかり切っているのに、冬真はまた理紗の後ろ姿を目で追っていた。