ゆえん
Ⅰ-Ⅴ
*
あんな騒ぎを起こしてしまったせいか、再び理紗は『You‐en』に来なくなった。
気になって仕方ないのだが、来ないのならそのほうがいいと、冬真は自分に言い聞かせていた。
彼女は沙世子ではなく、自分とは何の関係もない他人なのだから。
何より、自分が彼女を気にしていることなど、理紗本人は知るよしもないだろう。
一方、楓は理紗のことを案じていた。
「今日も来なかったね。理紗ちゃん」
「まぁ、来づらいとは思いますよ」
「彼女、お仕事は何をしているのかな」
楓は本当に理紗のことが心配で仕方ないように見えた。
「さあ」
「変なこと、してないといいけど」
「そうですね」
この場所で見せる理紗の様子から、楓が心配してしまうのは仕方ないかもしれないと冬真は思った。
理紗は冬真の目にもどこか危なっかしく、故意にトラブルを作り出そうしているかのように見えていた。