ゆえん
その日の閉店間際に、東京から帰ってきた浩介が『You‐en』に顔を出した。
「久しぶりに飲みにでも行くか」
「あ、いいわね。冬真君も来るでしょ」
「夫婦で楽しんできてください」
冬真が言うと、浩介は冬真の首に右腕を巻きつけ「お前、俺の誘いを断るか? ん?」と、ふざけてみせた。
「わかりましたよ。行きます。行きます」
二人の様を笑いながら楓は見ていた。
居酒屋で二時間半ほど飲んで、葉山夫妻と別れた冬真は、飲み処と夜の店が帯状に並ぶ道を歩きながら自宅へと向かった。
少し風があって、酔っている肌に心地好かった。
浩介との時間を過ごした後はいつも、彼が本当にいい男だと実感する。
楓にふさわしい男は彼しかおらず、またあの浩介にとってふさわしいのは楓しかいないだろう。
自分は沙世子にふさわしかったのだろうか。
葉山夫妻を見ているとそんなことを考えてしまう。