ゆえん
「大丈夫か?」
浩介は理紗にそっと言った。
顔を上げぬまま、理紗は頷く。
「……店長さんと昔からの知り合い?」
「まぁ、結構長いほうだと思うよ。冬真が学生の頃からだから」
「冬真? 店長さんの名前って、もしかして岸田冬真……」
冬真のフルネームを言う理紗を見て、浩介と楓は顔を見合す。
「そう。冬真がどうかした?」
「教えてもらいたいことがあります。でも……」
理紗は楓のほうをちらっと見た。
その視線は楓には話したくないと物語っていた。
楓はそれを敏感に感じ取った。
「私は遠慮する。帰ったらすぐお風呂に入りたいから、二人で話して」
「じゃあ、今晩はうちにおいで」
浩介の穏やかな笑顔に、理紗はこくりと頷いた。
三人が乗ったタクシーを見送った後、冬真は自分のベッドに倒れ込んだ。
居酒屋で飲み始まってから今までの時間は、いったい何だ。
自分は試されているのか。
居酒屋で並んで座る浩介と楓の姿の後に、罵声を浴びている理紗の姿が脳裏に浮かび、グルグルと回る。
「そっとしておいてくれ。今はこのまま……」
とても疲れた。
冬真はそのまま瞼を閉じた。