ニコル
禁断の言葉
　生徒達は本当に心から安心したのだろう。浩二に聞いてはいけない言葉を口に出し始めた。
　「先生・・・。」
　ひとりの生徒のたった一言が、さっきまで安堵の表情を浮かべていた生徒達の顔を少し曇らせた。“先生”の先にどんな言葉が続くのか、まるでわかっているかのようだった。ただ、浩二だけは疲れていたのだろうか。いつもの優しい表情で、生徒の言葉に応えてしまった。
　「どうした？」
　その一言が浩二をどうしようもない後悔と憎しみ、悲しみ、様々な感情が入り乱れ、混沌とした心の闇を大きくする事になった。
　「み、美咲ちゃん・・・。」
　生徒達には思った通りの言葉だったのだろう。その表情からは“安堵”と言うものは、全く感じられなくなった。浩二の息づかいが荒くなり始めた。

　一瞬で美咲の体は全身ニコルに覆い尽くされた。

　決して止まる事のない涙があふれ出しだ。生徒の前だという事を忘れ、浩二は嗚咽混じりで泣きじゃくった。
　「ごめんな。ごめんな。」
　そんな浩二の姿を見て、生徒はそれ以上言葉を続ける事を止めた。
< 105 / 155 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop