ニコル
 聞こえてくる声の中には、真生が聞いた事もある声も混じっていた。
 ―――この声って、朝日テレビのニュースで聞いた声よね。と言う事は、学校にテレビが来ているの?
 そう思いながら、もう一度目の前の光景を見てみた。よく見ると、いくつものテレビカメラが、いくつもの照明が、見た事もない機材が、現実とは思えないくらいにたくさんあった。そして、機材と一緒に、そこにはたくさんの大人がいた。
 真生の瞳からドッと涙が溢れ出した。そして、走り出した。
 ―――行かなきゃ。行かなきゃ。
 真生は何かに取り憑かれたかのように、その光を求めて走り続けた。
 もう、校門は目の前だった。
 ―――あと、少し。あと、少し。
 真生がそう思った瞬間、一斉にカメラや照明が向けられた。あまりの眩しさに、真生はその場に立ち止まった。すると、テレビリポーター達が真生の周りに群がった。真生は自分が蟻に群がられた角砂糖のような心境だった。
 ―――なんなの?こ、怖い・・・。
 周りにいる大人達の表情は、興味本位としか思えなかった。とても真生の事を心配しているように見えなかった。心が挫けている真生には辛い仕打ちにしかならなかった。真生の瞳からはドッと涙が溢れ出した。
 もう、周りの大人達が何を言っているかなんて、理解する事が出来なかった。もう、悲しくて、辛くて、苦しくて、泣く事しか出来なかった。
 そんな様子をテレビカメラは、真生の気持ちとは全く別の言葉を付け加えながら放送し続けていた。
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