ニコル
追尾する視線
 「教頭先生。転校生の近藤君の事でいいですか?」
 まだ、一時間目の授業が終わったばかりだと言うのに、疲れ切っている浩二の顔に教頭は驚いていた。
 「どうした?近藤君。何かあったのか。」
 “何かあったのか”と教頭に言われ、浩二は答えに困ってしまった。ニコルは何もしていないのだ。今、浩二が感じている事を教頭に話せば、それこそ教師失格と言われるのがオチだろう。
 浩二は少し考え込んだあと、とりあえずニコルの家庭環境だけでも聞こうとした。
 「いや、彼があまりにもおとなしいものですから。何か家庭環境に問題でもあるのかと思いまして。」
教頭は机の引き出しを開けると書類を取り出し浩二に渡した。そこにはニコルの家庭環境に関する事が書かれていた。
「本当は昼休みに渡そうと思っていたのだけどね。君が何か思う事があるなら、それを読んで次の授業に臨んだ方が良いかもしれないな。」
その書類にはこんな事が書かれていた。

・母親の名前はボニーという事
・父親とは現在同居していないという事
・ニコル達は日本に来て、まだ一年だという事
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