ニコル
 「ハヤテぇ。電話は、電話は繋がったか?助けは?」
 伝えたい事の半分も、口の中に拡がった血のせいでうまく話せない。
 「先生、繋がったよ。お巡りさんが電話に出てくれた。きっと、助けが来てくれるよ。」
 涙を袖で拭きながら、ハヤテが大きな声で答えた。しかし、浩二は同じ事をもう一度聞いた。
 「ハヤテぇ。電話は?」
 ハヤテは不思議に思いながらも、同じように浩二に答えた。浩二は何度も、何度も同じ事を言ってきた。
 ―――先生は耳が聞こえなくなってる・・・。
 もう一度、同じ質問をされた時、ハヤテは両手で大きなまるを作った。それを見るた浩二は少し微笑んだ気がした。
 「ハヤテ、みんなを連れて逃げてくれ・・・。」
 そう言いながら浩二は床に膝をついた。
 「先生ぃ。」
 叫びながら何人かの生徒達が、浩二の元へと駆け寄ろうとした。
 「来るんじゃないっ。」
 少しの沈黙があった。大きく息を吐いた後、こう付け加えた。
 「早く、早く逃げるんだ。」
 必死な浩二の表情に、生徒達は素直に従った。
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