ニコル
 「先生ぃ。」
 「待っててね。待っててね。」
 浩二と香田。大人ふたりで作ったバリケードは生徒達に容易に壊せるものではない。手が、腕が傷だらけになりながら、必死に大きな鍋やまな板を退かしていた。ハヤテも色々な所に携帯で、連絡をしながらみんなを手伝っていた。
 ハヤテが大きなフライパンの取っ手を引っ張った。
 大きな音を立ててバリケードが崩れた。目の前には扉があった。
 生徒達の目に少しだけ希望が映った。そのまま、視線を浩二の方に移した。
 そこには金色の固まりがあるだけだった。

 「とにかく、逃げるんだ。」
 ハヤテが大声をあげた。生徒達はわかっていた。もう、浩二がいない事を。でも、それを心が許してくれなかった。
 「でも、ハヤテ。先生が・・・。」
 「わかるだろ。先生はあんな風になってまで俺たちを逃がそうとしてくれたんだ。先生の気持ち、わかるだろ。」
 大声を上げすぎて、ハヤテの声は嗄れかかっていた。そんなハヤテの声を聞くと、他の生徒達は黙って扉を駆け抜け廊下に出た。
 「さようなら。先生・・・。」
 誰もが目にいっぱいの涙を浮かべていた。
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